”診断”とは、患者さんと治療を結びつける手段のことである。
患者さんを目の前にするとき、我々は患者の種々の情報から、どの治療法が患者さんの回復につながるのかを判断しなくてはならない。
その際、いままでの患者さんと比較してどこが似ているかを判断し、かつてうまくいったことを適用するプロセスが重要である。
患者AさんとBさんがαの点で似ていて、αが治療選択において大切かはいままでの分類と蓄積で分かる。
「AにはXが効いたが、Bには効かなかった」ならば、治療選択においてαは無意味な情報であるし、AとBを同じ分類にしても仕方がない。
例えば、ある不登校の児童Aには認知行動療法が有効であったが、別の不登校の児童Bには認知行動療法はあまり効果が無かったとしよう(こういうことはよくある)。
この場合、治療において不登校という分類には意味がなく、Aが社交不安症でBが統合失調症などと違うものとして分類されて、はじめて分類の意義が出てくる。
社交不安症に対して認知行動療法が極めて有効なことも、統合失調症に対しては認知行動療法の効果は限定的なことも、既によく知られていることである。
すなわち診断基準とは、過去の膨大な量の患者さんを解析し、その治療選択において意味をなす分類を提示したものである。
DSMは既に第5版が出版され、ICDは間もなく第11版が出版されようとしている。年月が経てばますます知見は蓄積され、洗練された診断基準が発達するだろう。
治療者として私達は患者さんに対して、薬物療法が良いのか、認知行動療法が良いのか、更にはどのような薬物/技法がより適切なのかを判断しなくてはならない。
これが正に診断である。
正しい診断がなければ、正しい治療の実践がありえないことは言うまでもない。